ストーカーに追い詰められるテニスプレーヤー~おすすめテニス映画『見知らぬ乗客』

見知らぬ乗客

はじめに

テニスの試合で焦ったことはあるだろうか。サーブが入らなかったり、リードしていたけれど追いつかれてしまったりして焦ったことはだれもが経験したことがあるに違いない。

この物語にの主人公のテニスプレーヤーは身の潔白を証明するために、試合に出場しなければならない。おまけに、はやく試合を終わらせなければならなかった。二つの焦りが絡まり、味わったことのない緊張感を見る者に突き付けてくる。

古い作品なのでモノクロではあるが、映画が始まったと同時にそんなことはすぐに忘れ、物語の世界に強引に引き込まれてしまうはずだ。

あらすじ

有名なテニス選手ガイは列車の中で、ブルーノという名前の不気味な男と出会う。彼は、浮気を繰り返す妻ミリアムと離婚したがっていることや、交際中の上院議員の娘と結婚したいと思っていることもなぜか知っていた

ブルーノは自分の父親を忌み嫌っており、殺したいと思っていることをガイに打ち明ける。そして、 お互いの邪魔者を殺すために交換殺人をしようと持ち掛ける。ガイは冗談だと思い相手にせずに別れる。そのときに置き忘れたイニシャル入りのライターをブルーノに拾われてしまう。その数日後、ブルーノは勝手にガイの妻を殺して、ガイに自分の父親を殺すようにさらに詰め寄って来る。

見知らぬ乗客(ブルーノ)に交換殺人を持ち掛けられる主人公ガイ(右)

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小道具の面白さ

ライター、眼鏡などの小道具の使い方が秀悦である。特に、殺人シーンが地面に落ちた眼鏡に反射して映る場面は非常に印象的である。ライターが溝に落ちて拾うまでの過程と主人公ガイがテニスを試合を終わらせるためにもがき苦しむ焦りなどが重なり、見る者の緊張感を増幅させる。冒頭からラストまでライターは伏線の役として頻繁に出てくる。

その他、タバコ、マッチ、風船、ネクタイピンなども効果的な演出として使われている。

主人公がテニスプレーヤーの必要性

主人公はテニスプレーヤーでなければならない。それは、離婚したい妻に「有名な選手になったから離婚しない。」と言われ、さらに金を要求される。そして、夫がいながら他の男と遊び惚け、他人の子どもまで身ごもってしまう。こんな妻は(悪女)殺されても仕方がないと見る者に思わせてしまう。もう1つは、主人公が試合相手と時間との両方と戦わなくてはない状況をつくるためだ。張り詰めた緊張感のままクライマックスを迎えることができるのは主人公がテニスプレーヤーだからこそなのである。

ストーカーの性格

強迫性障害とは、自分でもつまらないものだよとわかっていても、そのことが頭から離れず、何度も同じ確認をしてしまう障害である。また、自分の意志に反して頭に浮かんでしまったものを自分の力では払拭できず、ある行為をしなければいられないような障害だ。

この物語で主人公を追い詰めていくブルーノはまさに現代に置き換えるとこの障害名で診断されるのではないだろうか。ストーカー化したブルーノがガイに対して何度も繰り返して自分の父親を殺すように要求してくる態度や、テニスの試合の観客の中で一人だけ球の行方を見ず、ガイをじっと見つめてプレッシャーをかけてくる姿にはその障害を彷彿させる。彼の動向に心底ぞっとしてしまう。

テニスシーン

フェイスにガードをつけた昔のラケット

テニスプレーヤーなので、ラケットを持ち歩いている。1950年ころなので、やはりウッド(木製)のラケットだ。ラケットのフェイス部分には木製の枠のようなものがはめてある。これは何なのか調べてみるとどうやら、木製ラケットが曲がらないようにするためのガードだという。現代と違って木のラケットは長年使用すると変形したらしい。それを防ぐためにラケットフェイスにガードが取り付けられていた。テニスのテクノロジーが進化した現代ではめったにお目にかかれないものである。

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試合をはやく終わらせるためスマッシュに入る主人公(ガイ)

ガイのテニスシーンが結構長い。ブルーノは殺人事件現場にガイのライターを証拠品と置き、ガイに濡れ衣を着せようと企てていた。それを阻止するためにガイは予定されたテニスの試合に出場し、試合を早めに終わらせなければならなかった。それは、殺人現場に置かれるであろう自分のライターを一刻もはやく取り戻すためだ。

前半は相手を圧倒して試合を支配していたが、徐々に追いつかれていき長い時間戦うことになる。なんとか競り合いを制し、犯罪現場に急行することになるが…。

試合中のウェアやシューズなどはシンプルな白色である。テニスの試合内容は、現代とほとんど変わらない。1951年製作なので、1950年代のプレースタイルだと思う。相手を前後あるいは左右に振ってできたオープンスペースに打ち込みポイントを重ねていた。

観客たちのファッションが面白い。男性はハットをかぶっており、ネクタイにジャケットまたは、スーツ姿である。女性はパーティーに参加するようにドレスアップしている。もちろん色は白を基調としていた。昔の観客は結構きちんとしおしゃれをしてテニスの試合を観戦していたようだ。

試合の行方を見つめる主人公の恋人(右)と妹(左)

全体に張り詰めた緊張感

映画の冒頭から最後まで、張り詰めた緊張感が漂っている。これもブルーノを演じているロバート・ウォーカーという俳優の演技が素晴らしいからである。そして、ブルーノに翻弄されるガイや恋人さらには、それ取り巻く遊園地の係員などの演技も観る者の心をハラハラさせる。

大破するメリーゴーランド

ラストのメリーゴーランド上での格闘シーンやその装置を止める係員の緊張した表情、クライマックスに崩壊して崩れてしまうメリーゴーランドのシーンはCG技術のない時代ならではの本物の迫力がある。特に、係員が暴走したメリーゴーランドの下をくぐって機械を止めるシーンは緊張感が最高潮に達する。このシーンの撮影があまりにも危険なので、監督のヒッチコックもハラハラして見守っていたというエピソードが残っている。

監督の出演

この映画の監督はスリラーの神様と言われたアルフレッド・ヒッチコックである。彼はたくさんの名作映画を遺している。『めまい』『裏窓』『北北西に進路を取れ』などの古典的な名作が多い。この監督には自分の作品ちょっとだけ出演するあそび心があった。

冒頭のシーンでブルーノとガイが列車の客室で別れた後、コントラバスを抱えて列車に乗り込んで来る男性がいる。その男性をヒッチコック監督がいたずらっぽく演じている。


メリーゴーランドの事故で重傷をおったストーカー

おわりに

この作品は映画ファンもテニスファンも十分に楽しめるであろう。予想外の展開がスリリングに進んで行くストーリーはテニスの試合を観戦して味わう感覚と似ている。また、テニスの歴史的な文化も知ることができるはずだ。是非、この映画を鑑賞して、テニスファンとしての楽しみの幅をさらに広げていただきたいと思う。

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