さまざまなスポーツで起こる可能性のあるイップスとは?テニスにおけるイップスの例は?

出典:NY tennis magazineより

スポーツにおいて高い技術レベルを持ちながら、ある日突然これまでできたはずのプレイができなくなるイップスと呼ばれる症状があります。言葉は聞いたことがあってもイップスがどんなものか理解している人は少ないはずです。

イップスとはどのようなものなのか、テニスでイップスになった過去に選手はいるのかなど、今回は調べてみました。

イップスとは?

精神的なことが原因でこれまでにできたプレイが突然できなくなるのがイップスです。元々プロゴルフの世界で使われたのが始まりで、次第に他のスポーツでも「イップス」という言葉使われるようになりました。

ゴルフ以外のスポーツでは「イップス」という言葉が使われていなかっただけで、「スランプ」のように違う言葉で代用されていただけで、昔からあった可能性も十分考えられます。

イップスの有名な実例。

アスリートにとってイップスを公表することは自分の弱みを公表することと同義になります。調べてみると、選手本人がイップスと認めているケースは少なく、周囲がイップスと考えるような例が多いようです。

イップスを選手本人が認めていたり、明らかなイップスとして考えらえれていたりする事例をいくつか紹介していきます。

トミー・アーマー(ゴルフ)

イップスという言葉が認知されるきっかけとなったのがトミー・アーマーです。全米オープンを含むゴルフのメジャー大会3勝を挙げ、ゴルフの殿堂入りも果たした名選手です。

アーマーは優勝した1927年の全米OPから1週間後、ショーニーOPの17番ホールで全くパットが入らず+18の23打をたたき、PGAツアーの1ホールにおける史上最多打数を記録しました。

ゴルフ界最高峰の大会を制した1週間後にアーマーはパッティングでイップスを発症しました。その後のキャリアでもアーマーはパッティングでしばしばイップスに悩まされたようですが、それでも残りのキャリアでメジャー大会2勝を挙げています。

アーマーの経歴からイップスは克服できない症状と言うわけではなく、ある程度コントロールできる問題であることが分かります。

田口壮(野球)

オリックスで活躍し、MLBでは世界一になり2度のチャンピオンリングを獲得した田口壮選手は、プロ入団時に送球恐怖症というイップスで悩まされました。

内野手としてプロに入った田口選手はイップスを発症し、1塁への送球を内野スタンドに投げ込んでしまうこともあったそうです。余裕をもってプレイできるときほど悪送球が多くなり、精神的なものが原因だったと本人は語っています。

守備位置を内野から外野に移したことで、送球について深く悩む必要が減り、長く現役としてプレイすることができたそうです。

その他のイップス発症例。

卓球でイップスを発症した三部航平選手。
引用:Rallyより

ゴルフや野球以外では卓球ボウリング、サッカー、クリケット、弓道、アーチェリーなどあらゆるスポーツでイップスと考えられる症例が確認されています。

イップスはスポーツに限った話ではないようです。美容師がある日突然思ったようにハサミを扱えなくなったり、演奏家が楽器を弾けなくなったりするなど、スポーツ以外の分野でもイップスと認められる事例があります。

テニスにおけるイップス。

ではテニスにおけるイップスとはどのようなものなのでしょうか。調べていくと何人かの有名な選手がイップスで悩まされていたという情報が見つかりました。

ギリェルモ・コリア (元世界3位)

シングルスで自己最高3位、ATPツアー9勝、全仏OPでは準優勝したコリアはサービスイップスに悩まされていました。コリアのイップスがどれだけ深刻だったかは過去の試合スタッツを調べることで分かります。

2005年のシーズン途中からダブルフォルトが徐々に増えていき、USオープンの4回戦で20本準々決勝では14本と、2試合で34本ものダブルフォルトをコリアは記録しています。

USオープン敗退後にコリアのサービスイップスはどんどん深刻度を増していきます2005年と2006年のサービスに関するスタッツを比較するとコリアが重度のイップスを発症していたことが分かります。

2005年のコリアの試合スタッツ
2006年のコリアの試合スタッツ
引用:ATPより

両年の成績を比較すると、サービスエースとダブルフォルトの比率が大きく変わっていることが分かります。2005年はサービスエース1本当たりのダブルフォルトは1.33本ですが、2006年は20.5本と激増しています

それぞれの年の出場試合も調べたのですが、2005年は82試合2006年は25試合と、出場試合数は2005年の半分以下だったことからも急激にダブルフォルトの数が増加したことが分かります。

2006年の1試合当たりのダブルフォルト数10本以上となっています。コリアが引退した原因は怪我と言われていますが、サービスイップスの発症後に成績が悪化したことは明らかで、イップスが引退に大きく影響した可能性は否定できません。

サービスイップスで悩んだテニス選手。

サービスイップスが疑われたイバノビッチ
引用: Tennis News Surge より

コリア以外にサービスのイップスで苦しんだ選手として、エレナ・ディメンティエワ、アナ・イバノビッチ、ディラナ・サフィーナの名前が挙がります。

ダブルフォルトを避けるためにサービスを弱く打つ方法もありますが、プロレベルではそんなことは通用しません。イップスはいつ発症するか分からないだけに、ダブルフォルトを1試合で10本以上記録するようなこと続く選手はイップスが疑われます

原因は?

イップスが発症する原因は極度の緊張状態に身体が晒されることだと考えられています。イップスの発症が熟練したアスリートに多い理由も緊張が原因であれば説明がつきます。

プレイ中の緊張状態以外にも、団体競技ではチームメイトとの関係から生じるストレスで原因でイップスが発症することも報告されています。

スポーツ以外でも手に職を持つ芸術家や美容師のような人たちがイップスを発症するのも、仕事によって感じるストレスや緊張が原因になります。

克服方法は?

イップスを克服するためには、イップス発症につながった根本的な原因を把握する必要があります。まずは原因を把握し、自分の精神状態を受け入れるように努めます。

その後、次のステップとして問題が生じた動きを一度忘れて、ゼロから再構築していきます。動きを再構築するために動作を分解して、身体に動きをインプットするためのドリルやトレーニングを実行していくと良いようです。

精神的な原因の究明と、運動動作の再構築の両方を進めていく事がイップスの克服に効果的と考えられています。どちらか一方のみでイップスが改善することは稀なようです。

ちなみに克服のためには正しい知識を持ったスポーツ心理学のプロにサポートしてもらうことが重要で、一般的な医師に精神安定剤や抗うつ剤などを処方してもらったり、アルコール摂取などで気を紛らわしても根本的な解決にはつながらないと言われています。

テニスは楽しむことが一番!

プロレベルのアスリートは突然の技術低下をイップスという形で説明することができます。しかし一般レベルでもストイックにテニスに打ち込んでいる人はイップスが原因で伸び悩んでいる可能性もあります。

イップスの原因がストレスや緊張であることからも、テニスが上達したければテニスを楽しむことがやはり一番なのかなと個人的には思いました。テニスコーチとしてもその点は心に留めておきたいと思います。