テニスグランドスラムの歴史秘話 ~全仏オープン~

出典:Pixabay

グランドスラム唯一のクレイコートで行われる全仏オープンは国際的なスポーツトーナメントとして知られており、フランスを代表する歴史と伝統の1つとなっています。その伝説の始まりは今から128年も前に遡ります。

この記事では全仏オープンの歴史を辿り、その魅力に迫ります。

全仏オープンの歴史

伝説の幕開け

1891年、当時は「French Clay-Court Championships(フランス クレイコート選手権)」として始まりました。このトーナメントはフランス人男子のみが参加を許された国内トーナメントでした。

この時代に一躍スーパースターとなった人物がMax Decugisという選手で、1903年から1914年の間に8回もの優勝を飾っています。全仏オープンの伝説ともいえる選手でしょう。

創設から6年後の1897年には女子トーナメントが開催されています。当時から女性がスポーツ界で活躍することに関して理解があったフランスは男女平等の先進国であるといえます。

国内トーナメントから国際トーナメントへ

1925年、外国人の参加を認め国際大会としての産声を上げることが決定し、全仏オープンの歴史において最大の転換期を迎えます。全仏オープンの誕生です。

しかし国際大会として開催後すぐはまだフランス人選手の独壇場でした。 女子ではフランス人のSuzanne Lenglenが1920年から1926年の間に6回優勝し、初の女性アスリート、スーパースター誕生の瞬間でした。

一方男子では Henri Cochet、René Lacoste、Jean Borotra、Jacques Brugnon の4人が1922年から1932年の10年間の間に表彰台のトップを独占し、「四銃士」の異名がとられ多くのファンを魅了しました。

さらにこの四銃士の活躍は国内に留まりません。1927年、フランス代表としてデビスカップに出場した4人は当時7連覇を果たしていた世界最強アメリカ代表を打ち負かし、世界を驚愕させます。

これを機にテニス界の覇権を握りたいフランスは全仏オープンの地位向上とブランド確立のため、世界最高のテニスコートを建設することを決定します。これが現在の「Roland-Garros(ローラン・ギャロス)」です。 「ローラン・ギャロス」という名は、世界で初めて地中海横断飛行に成功したフランス人パイロットの名前に由来しています。

アマチュアもプロも、世界最高の舞台で

第2次世界大戦後、英語圏の代表選手が全仏オープントップの座を席巻することになります。Rod Laver、Ken Rosewall 、Margaret Court などアメリカ、オーストラリア出身の選手が1962年から1973年の間にトータルで13のタイトル(シングルス5、ダブルス4、ミックス4)を獲得しています。

1968年、アマチュア選手がプロ選手と同じ舞台で戦うことが可能になりました。これはグランドスラムの中で初めてオープン化された歴史的な瞬間でした。

そんな中、Björn Borg (6タイトルホルダー) とChris Evert (7タイトルホルダー :女子歴代最多)の2選手が1979年のコート拡大までに全仏オープンタイトルを独占していました。

さらに1986年と1992~1994年にローラン・ギャロスの拡大は続き、8.5ヘクタールの敷地に20のコートを創設しました。

フランス人としては面白くない…?スペイン出身選手の大躍進

1990年代からスペイン出身選手の台頭が目立ち始めます。Arantxa Sanchez、Sergi Bruguera、 Carlos Moya、 Albert Costa、 Juan Carlos Ferreroなど先駆者がその歴史を切り開いていきます。

そんな中2005年、彗星のごとく現れた新星がラファエル・ナダル選手でした。彼は2005年から2014年までの間に9もの全仏タイトルを獲得し、「クレイの王者」と呼ばれるようになりました。2019年現在の獲得タイトル数は12、これは歴代最多記録とされており、今後さらにその数を伸ばしていくことが期待されます。

一方フランス出身選手がタイトルを獲得できない状況をあまりよく思っていないのが保守派のフランス国民です。今現在でも国際試合をやめてフランス国内だけで完結させるべきだ、という主張があるほどで、その影響力は計り知れません。

全仏オープンは試合中のすべてのコールがフランス語で行われます。こうした歴史的な背景とフランスの国柄から、グランドスラムの中でも異質な雰囲気を持っているといっても過言ではありません。 

クレイコートには魔物が潜む?

全仏オープンの特徴とは

全仏オープンはグランドスラムで唯一クレイコートを採用している大会です。 このクレイコートは番狂わせを起こしやすく、「赤土には魔物が潜む」と言われるほど、ドラマチックな展開を生み出すことで有名です。

例えば2014年の全仏オープン、当時世界ランク3位のワウリンカ選手が世界ランク41位のガルシア・ロペス選手にまさかの1回戦敗北。

また同じく2014年の4回戦、第4シードで勝ち進んでいた絶対王者フェデラー選手が第18シードのガルビス選手にフルセットの末敗北を喫しました。 全仏でフェデラーが8強を逃したのは、3回戦で敗れた2004年以来、10年ぶりでした。

クレーコートってどんなコート?

ではクレイコートとはどんなコートなのでしょうか。グラスコートやハードコートに比べると、バウンド時にボールが持っているエネルギーを吸収しやすいため球足が遅くなるという大きな特徴を持っています。

そのため持久戦になりやすく、豊富なスタミナと屈強な精神力が求められます。ベースライン付近を主戦場にするタイプの選手には戦いやすいコートです。

さらにバウンドが高くなりやすいという性質も持っています。ナダル選手のような強烈なトップスピンを武器にしている選手にとって、クレーコートはうってつけのコートだといえます。

気になる全仏オープンの優勝賞金

気になる全仏オープンの優勝賞金をご紹介します。その額は開催年度によって異なり、年々高くなっているようです。

2006年大会
94万0000ユーロ
2007年大会
100万0000ユーロ
2008年大会
100万0000ユーロ
2009年大会
106万0000ユーロ
2010年大会
112万0000ユーロ
2011年大会
120万0000ユーロ
2012年大会
125万0000ユーロ
2013年大会
150万0000ユーロ
2014年大会
165万0000ユーロ
2015年大会
180万0000ユーロ
2016年大会
200万0000ユーロ
2017年大会
210万0000ユーロ
2018年大会
220万0000ユーロ
2019年大会
230万0000ユーロ

全仏オープンーWikipedia

2019年7月現在のユーロ相場は1ユーロ約121円ですので、2019年大会の賞金額は日本円に直すと2億7830万円。とんでもない金額であることがお分かりいただけるかと思います。

ちなみにナダル選手が全仏オープンだけで手にした優勝賞金の合計金額は日本円にしてなんと20億7394万円。いったいどれだけの税金を払っているのか…計り知れません。

誇り高きフランスの伝統が残る最高峰の舞台

全仏オープンはグランドスラムの中でも特にアウェーの選手は不利ということで有名です。2015年の錦織選手VSツォンガ選手の準々決勝では、フランスサポーターの熱狂的な応援と雰囲気に圧倒されてしまった方も多いのではないでしょうか。

そんなフランスの誇りと伝統が残る全仏オープンですが、こうした歴史やコートの特徴を知ることでより観戦を楽しむことができます。2020年全仏オープンの覇者は3連覇中の王者ナダル選手か、果たして…?