車いすテニスの魅力 ~ジャパンオープン飯塚レポート~

国枝慎吾

昨日(4月28日)に飯塚市で開催された車いすテニスジャパンオープン大会を観戦した。男子は国枝慎吾(世界ランキング1位)VSステファン・ウデ(5位)、女子は上地結衣(世界ランキング2位(世界ランキング1位)VSディテード・デグルートの決勝戦が開催された。男女ともに日本人選手の決勝を見れたことは本当に幸運だった。

季節外れの寒さの中、非常に熱い戦いが繰りひろげられた。以下にその様子をレポートする。

試合の開催場所は、のどかなところ

車いすテニスジャパンオープンは飯塚市で開催された。自宅から車を約2時間半走らせると目的地に着いた。その市は、小高い山に囲まれた盆地のようなところに田畑が広がり、蓮華が咲き乱れた美しい場所にある。人口は18000人弱、産業は製造業の誘致と観光(主に温泉)のようだ。とても静かで自然が豊かなところのせいか交通の便はあまりよくない。

このように比較的不便なところで大会が開かれるようになったのかは、筆者のコラム

「車いすテニスを見に行こう!」https://tennisnavi.jp/article/knowledge/5896/ に詳しく述べている。

観客席(車いすのスペースが確保されている)

車いすテニスの観戦料に驚く!!

会場に着いて、すぐにチケット売り場を探した。いくつかテントが建ててあり、その都度チケット売り場なのかどうか確認したが、グッズやスタッフ待機場所などばかりで見当たらない。そうこうしているとテニスコート(ハード)を見つけた。ゲートが開いていたので、人の流れに沿って観客席におそるおそる入った。ベンチに観客が数名座っていたので、筆者もそれにならって座ることにした。

筆者は楽天オープンテニスの決勝戦を過去2度ほど観戦したことがある。入場料は安い席で8000円、コートサイドは30000円位した。過去の経験から
チケットを購入していないこと気が咎め、ベンチに腰掛けても落ち着かない。席を立ち、もう一度入場券売り場を探したが見つからなかった。

後でわかったのだが、なんと飯塚市でのジャパンオープンの観戦料は無料なのだ。

結局、無料でしかも、コートのすぐ側でかぶりつきで観戦できた。(座った席からコートのサイドラインまでの距離は約6メートルくらい)試合はというと、1万円出しても全然惜しくないエキサイトする素晴らしい内容だった。

女子の決勝
上地選手とデグルート選手のフォトセッション

テクニックVSパワーの女子

上地選手とデグルート選手の試合は、技とパワーの攻防だった。上の写真でもわかるように上地選手はとても小柄だ。デクート選手は大柄で体格がよく、腕がとても長くて上半身はたくましい。この体格差が試合に影響した。

上地選手は、非常にテクニシャンだ。伊達公子選手の戦い方に似ている。デグルート選手の速い球をライジングで捉え、返球した。非力の彼女は、相手のパワーを上手に利用して、スピードボールを打つことが巧みだ。そして、相手の時間を奪い、左右に振ってポイントをとっていた。カウンターショットもバンバン決まっていた。チャンスがあればネットに出て、スイングボレーでコーナーぎりぎりに決めることもできる。試合の組み立てもすばらしかった。

強くて美しいデグート選手

デグールート選手は、パワーテニスだ。セリーナ・ウイリアムズ選手に似ている。特にサーブがすばらしい。高い打点でから打ち下ろせる。相手のチャンスボールをさらなるパワーでオープンスペースに打ち込みポイントを重ねた。

彼女はファーストサーブの確率が非常に高いので、気持ちが乗って他のショットのクオリティもよくなっていった。一方、上地選手はサーブに苦しんでいた。ダブルフォルトがとても多く、今一歩気持ちが乗れず、ナーバスになっている様子だった。サーブの差がゲームの流れを左右することになった。結局、上地選手のテクニックをデグルート選手がパワーで封じ込めた形になり、セットカウント2-0、スコア(6-3 7₍₈₎-6)でデグルート選手が優勝し、上地選手は7連覇を逃してしまう

死力を尽くして戦う二人の選手に胸が熱くなった。

燃えたぎる技のデパートVS超高速サーブの男子

女子の試合が終わりすぐに男子の試合が始まった。観客を全然待たせないのが嬉しい。

国枝選手のライバル、ウデ選手

男子はスピード、パワー、駆け引きなどすべてが女子よりレベルが高い。国枝選手の対戦相手ウデ選手は、噂のハイテク車いすを乗りこなしていた。多分1,500万円もする車いすだ。国枝選手の車いすとは全く違う形状で、少しの体重移動や体の傾き加減で推進力をうみだしている。手でリンクを回し力を加えると、どこまでも進んで行くのではなかと思わせるほど車輪が滑らかに回転する。しかし、軽いがゆえに前によく倒れそうになる場面がいくつかあった。

ウデ選手のハイテク車いす(1,500万円もするらしい)

ウデ選手の一番の武器は高速サーブである。特に勝負所ではセンターを狙い、エースをバンバンとっていた。回転量も多いので、車いすに乗らない筆者が対戦したとしても、リターンすることは至難の業だろう。さわることさえできないかもしれない。もう一つの武器は、彼のタッチセンスだ。国枝選手がネットに詰め、高い打点でフォアハンドを叩き込んだが、彼は、そのボールをロブボレーし、国枝選手の頭上をフラフラと越えさせ、ベースライン内側にポトリと落下させた。そのプレーに観客はどよめいた。パワーとタッチ感覚が素晴らしい選手だった。

国枝選手は、サービスエースをとられることもあったが、サーブの読みが当たった時は、リターンエースを決めていた。セカンドサーブになると、前進し、ライジングリターンをしてポイントを奪っていた。

彼の一番の武器はディフェンス力だろう。無理だと思われるボールでも最後にはギリギリ追いつき返球する。彼は相手がボールを打った途端、相手に背を向けることが多い。落下ポイントを瞬時に予測し、そのポイントまで最短距離で移動する。そのポイントに着いたら車いすを素早く回転させながらボールを瞬時に見てひっぱたく。その際、ボールを見る時間は1秒にも満たない。それでもコースを狙ってヒットできるのだから並大抵の反応能力ではない。移動からターンそしてヒッティングまで全く無駄な動きがない。車いすの回転運動をうまく利用してボールにスピンとパワーを与えていた。

彼はどのショットも一級品だったが、その中でも、2種類のドロップショットは芸術品だ。

1つはベースラインから、「フワッ」と浮かせたドロップショットだ。やや高い軌道でネット際に落ちるので、あまいドロップショットに見える。しかし、すごい逆回転がかかっているので、垂直に弾むどころかバウンド後、ネットに戻る。相手はボールが国枝選手の方へ戻るのだから追いつくことができない。往年の名プレーヤーマッケンローのバックボレーの逆回転をかけたドロップショットを彷彿させた。

もう一つは、ネットに詰めてのバックボレーのドロップショットだ。このショットは、アングルのライン上にピタリと来まる。相手は深いボレーと判断し身構えるが、自分から一番遠い左サイドのアングルにポトリと落とされるのだから絶対に取ることはできない。相手のタイミングを外す完璧なショットだ。

さらに感心したのは、トップスピンロブだ。ディフェンスする際、少しでも余裕があればトップスピンロブで返球する。それがベースラインとサイドラインの交わった角にピタリと決まる。相手はアウトを予測するが、急激に落下して枠の中に入るので拍手するしかない。

スライスの質とコントロールも素晴らしい。絶妙のタッチでロングスライスもショートスライスも自在に操る。ショートのスライスは、サイドライン上を平行に進みライン乗る場面を何度も見た。ロングスライスはバウンドしてもほとんど跳ねないので相手は非常に返球しづらそうだった。

国枝選手はウデ選手ほどパワーはないが、多彩な技で相手を放浪する。プレースタイル錦織選手に似ていると思った。(少し国枝選手の方が気持ちが強いかもしれない。)国枝選手は技の引き出しをたくさん持っているので見ていて楽しい。次に何をするのかワクワクさせる。見る者を虜にする魅力が彼のプレーにはある。ロジャー・フェデラーが彼をリスペクトするだけのことはある

他に楽しいのは彼の掛け声だ。よく「アーリッシュ!!」?と叫んでいる。他に、ロブを打つ時に「ポポーン」と叫ぶ。どこの言語なのかと思ってしまうが、迫力のある試合の効果音として大いに楽しむことができた。

ポイントを決めたときのガッツポーズとドヤ顔もとてもいい。決めた時の自慢げな表情はとても魅力的だ。思わず拍手してしまう。やはり彼はスーパースターだ。

優勝した国枝選手と準優勝のウデ選手
7-6、7-5で国枝選手が優勝した。
本当は仲の良い二人

最後に

このように実際に見る車いすテニスの試合は想像以上に迫力があり、楽しいものだった。同伴した妻も何度も「見に来てよかった。」「感動した。」とつぶやいていた。

テニスファンでなくても、試合の面白さを堪能できるのだ。

国枝選手が優勝インタビューでしきりに、「寒い中たくさんの人に観戦していただき感謝している。」と言っていた。(観客はおよそ200名)他の試合会場ではもっと観客が少ないのだろう。

WOWOWでフレンチオープンの女子決勝の映像を見たことがあるが、観客は10数名程度だった。国枝選手にとって今日の観客数は嬉しかったのかもしれない。飯塚市やその周りの地域では車いすテニスへの関心が高いのだろう。

しかし、今日の朝刊で車いすテニスジャパンオープン優勝の国枝選手の記事はない。TVでもその放送を見ない。CSや福岡の放送局ではオンエアするらしいが、全国中継やニュースはない。世界四大大会に次ぐ、スーパーシリーズに格付けされているアジア最高峰の車いすテニス大会でさえこのありさまである。妻はそのことに憤りを感じており、筆者も同感である。

しかし、このサイト(TennisNavi)には、国枝選手の優勝が大々的に取り上げられていたのが嬉しかった。

今回の取材?を通してもっと車いすテニスのことを社会に周知していきたいと強く思った。そして、来年も飯塚市に観戦に行くことを決めた。もちろん家族や知り合いを引き連れてツアーで組んで観戦したい!

さあ「みんなで見よう!車いすテニスを!」


ジャパンオープン URL  https://japanopen-tennis.com/

車いすテニスへ Good Luck!