プロテニス選手の人生も栄枯盛衰で、決していい時ばかりではありません。現在、男女合わせて6,000人程度のプロテニス選手がいます。そのうち、コーチやトレーナーと契約を結び、常に自らのチームとともに世界を転戦している選手はほんの一握りです。
その一握りのうち、世界に名を馳せ、成功していると呼べる選手はもっと少なくなります。今回は、厳しいプロテニスの世界で成功したベテラン選手たちのプロ人生について考察してみました。
プロテニス選手生命には限りがある
当然ですが、プロテニス選手は一生続けられる職業ではありません。年齢を重ねると疲れやすくなり、また回復も遅れるなど、体力的な衰えが生まれてきます。体が思うように動かなくなってくると、選手はプロ引退の道を選ばざるを得ません。
ツアーの過密化が選手生命を縮めている?
近年、男女ともにツアーの過密化が進んでいるため、必然的に出場大会数が増え、選手の体力的な負担が増加していると言われています。プロの中でもトップクラスの選手は、出場する大会数を絞り、代わりにグランドスラムなどの大きな大会で好成績を納められますが、各大会の1回戦や2回戦で負けてしまう選手は、上位の選手よりも多くの大会に出場しないことには賞金もポイントも稼げません。
試合は1月から11月末(または12月初旬)まで、毎週どこかの国で複数行われています。男女ともにまったく試合のない週は、現時点では存在しません。つまり、トップクラス以外の選手は、大会数をこなすことでランキングを上げるしかないということです。そのため、疲れが取れていなくてもすぐ次の試合へと出場しなければならない現実があります。
プレーレベルの上昇
ツアーの過密化だけでも疲弊しますが、プロテニス選手に求められるプレーのレベルが、一世代前に比べて上昇していることも選手の負担増加に繋がっているとも言われています。
男女ともに選手の体格がよくなったことで、いわゆるビッグサーバーが増え、ショットのスピードや回転量などの威力も上がりました。現在のプロテニス選手たちは、それらをしっかりとリターンできるように、筋力や持久力はもちろん、体幹の良さや優れたバランス感覚までもを求められます。
プロテニスのレベルが上昇することは良いことですが、それに適応するために更なる努力やトレーニングが必要となると、無理をして怪我のもとになるなど、逆に選手生命が縮んでしまうケースも多くなっています。
それでもプロテニス選手の平均年齢は上がっている!
しかし、プロテニスの世界が過酷になっていく一方で、選手の平均年齢は上がっています。かつては30歳が引退のボーダーラインでしたが、現在の世界ランキングを見てみると、男子はトップ10のうち7人が30代、女子もトップ10のうち6人が20代後半または30代です。
では彼ら、彼女らはどのようにして体力の衰えと戦っているのでしょうか。
ロジャー・フェデラー
37歳にして今なお世界ランキング3位のフェデラーですが、彼にも大きな膝の怪我がありました。そこでフェデラーは、思い切って「ツアーから離れる」という決断をしたことが正解でした。休養したことでしっかりと回復し、復帰早々にグランドスラムで優勝するなど、再び目覚ましい活躍を果たしています。
また、復帰初年度であった2018年は、膝に負担のかかりやすいクレーコートの大会を全て欠場するという異例の決断もありました。彼は自らの体をうまくコントロールし、37歳でも世界のトップを保ち続けているのです。
アンジェリック・ケルバー
ケルバーは現在、女子で唯一の30代のトップ10選手です。しかしケルバーにも成績不振の年がありました。2016年に初めてグランドスラムで優勝し、世界ランキング1位にも輝きましたが、翌年は太ももの怪我で大会欠場・早期敗退が続き、ランキングも21位まで落としてしまいました。
痛みのある体で試合に強行出場したこともありましたが、2018年はグランドスラムやWTAプレミア・マンダトリーといった大きな大会に照準を絞り、コンスタントに勝ち進んでランキングを上げました。体のコンディションをどこに合わせるか、それを明確にしたことが彼女の復活のきっかけとなったのです。
ブライアン兄弟
男子ダブルス界のレジェンドとも言えるブライアン兄弟ですが、現在40歳になる弟のボブが、2018年に股関節の手術を受けました。全く歩けない状態からリハビリを開始し、手術からわずか3週間後にはボールを打てるまでに回復しました。
しかしボブはその後も半年ほどしっかりと療養し、2019年のシーズン開幕戦で無事ツアー復帰、翌週には久しぶりの勝利も果たしました。手術後、早く復帰しようと焦ったせいで更に悪化してしまう選手もいる中で、長いリハビリ生活に耐えたことがボブの強さでした。
お疲れ様でした!ありがとう!2018年、2019年の主な引退選手
プロテニス選手の平均寿命が延びているとはいえ、全員が全員、第一線で活躍し続けることは出来ません。男女ともにプロの世界はポイント制で、力関係がはっきりしているので、ランキングの低下とともに引退を決意する選手もいます。
ここでは2018年、または2019年シーズンでの引退を発表した主な選手をご紹介します。
アグネツカ・ラドバンスカ
ポーランド出身の29歳、ツアー通算22勝を挙げました。2012年には世界ランキング2位まで上り詰め、同年の全米オープンでは準優勝という輝かしい成績を残しました。ロンドン五輪ではポーランド選手団の旗手に抜擢され、その後のグランドスラムでもコンスタントに勝ち進み、ランキングトップ10の常連でした。
しかし2017年頃から出場数が減り、2018年11月に健康上の理由で引退を発表しました。
ルーシー・サファロバ
チェコ出身の31歳、単複ともに活躍し、シングルスではツアー7勝、ダブルスでは15勝を挙げました。女子の国別対抗戦フェド・カップではチェコを4度の優勝に導いています。2015年には全仏オープンで準優勝し、シングルスで世界ランキング5位になりました。
また同年からベサニー・マテック=サンズと組みダブルスも積極的に出場し、グランドスラムを複数回制覇。2017年にはダブルスランキングで1位になりましたが、2015年頃から患っていた細菌感染症の影響で現役生活を続けることが難しくなり、2019年の全豪オープンで引退することを発表しました。
ジル・ミュラー
ルクセンブルク出身の35歳。ジュニア時代にウィンブルドンで準優勝、全米オープンで優勝しました。その後プロへと転向し、3年間の下積みを経て、シニア・グランドスラムに初出場。同年にはATPツアー初の決勝進出も果たしました。
順調なプロ人生のスタートと思われましたが、成績不振が続き、一時は世界ランキング100位以下に転落します。そこから再び這い上がった彼は、2008年の全米オープンで、ルクセンブルク出身のテニス選手史上最高のベスト8という成績を残しました。
怪我もあり、安定したプロ人生ではありませんでしたが、2017年に自己最高ランキングの21位をマークするなど大器晩成型でした。しかし2018年にはランキング100位以下に戻り、同年の全米オープンを最後に引退しました。
ダビド・フェレール
スペイン出身の36歳。ツアー通算29勝を挙げました。2007年以降、ATPマスターズやグランドスラムなど大きな大会で好成績を納め、世界ランキングを一気に5位まで上げました。男子の国別対抗戦デビス・カップでは3度の優勝に貢献しました。2013年には全仏オープンで準優勝し、自己最高ランキングの3位に上り詰めます。
クレーコートを得意としていますが、どのサーフェスでも安定した成績を残したのは、スタミナとフットワークの良さを生かしたプレースタイルのおかげでしたが、2016年頃から少しずつ勝利数が減り始め、2019年のマドリード・マスターズを最後に引退すると発表しました。
若手はもちろん、まだまだ頑張るベテランも応援しよう!
あらゆるメディアで取り上げられるのは、将来の期待される若手選手であることが多いように思います。その裏で、30歳を超えたベテラン選手たちも、どんどん進化するテニスに、あるいは次々と現れる若手選手に負けじと、日々試合のために世界を転戦しています。
ダブルスでは30代後半から40代の選手も多く活躍していることを忘れてはいけません。試合を見ていると、テニスに生きる彼ら、彼女らの努力をプレーから感じ取れる瞬間があります。そんな時に、この記事を思い出していただけると嬉しいです。
強い選手がどんどんポイントを稼ぎやすくなるっていうATPツアーの構造が、今のBIG4(3?)を生み出したんじゃ。。
まいまいさん
私はその通りだと考えています。過密なスケジュールを過酷にこなしているのは、BIG4(3?)以外の選手です。
これは現テニス界の一大問題だと考えていますが、個人的な感情でATPやWTAを非難する記事を書くのはおかしいと思ったので、問題提起程度にとどめておきました。
ツアーの仕組みはいつかまた記事にしたいと考えています。コメントありがとうございました。
ラドバンスカ引退してたのか。。好きだったのに
栄枯必衰の世の中で、ビッグ4(マレー選手を除けばビッグ3)が未だ健在というのは、喜ばしいことと、反面錦織選手などもあっという間に今年30歳。ちと複雑ですね。とても素晴らしい記事、今後も読みたいです。