いろいろのテニスメーカーがある。どのメーカーのものを使えば、よいプレーができるのだろうか。
現在のトップ5の男女の選手が身に付けているもの、使っているものを使用すれば彼らのレベルに近づけるのかもしれない。そこで、上位選手が使う三種の神器、ウエア、ラケット、シューズのメーカーについて調べてみた。現在(2020年2月22日)は1位ノバク・ジョコビッチ 2位ラファエル・ナダル 3位ロジャー・フェデラー 4位ダニエル・メドベージェフ 5位ステファノス・チチパスだ。
女子は、1位アシュリー・バーディ 2位シモナ・ハレプ 3位カロリナ・クリスコバ 4位ベリンダ・ベンチッチ 5位ビアンカ・アンドリースクである。
われらの、錦織圭、大阪なおみ両選手はトップ5には入っていないが、日本人なので表の中に入れてみることにした。
順位 | 名 前 | ウエア | ラケット | シューズ |
1 | ノバク・ジョコビッチ | ラコステ | ヘッド | アシックス |
2 | ラファエル・ナダル | ナイキ | バボラ | ナイキ |
3 | ロジャー・フェデラー | ユニクロ | Wilson | ナイキ |
4 | ダニエル・メドベージェフ | ラコステ | テクニファイバー | ナイキ |
5 | ステファノス・チチパス | アディダス | ウィルソン | アディダス |
30 | 錦織 圭 | ユニクロ | Wilson | ナイキ |
上位メーカー | ラコステ | Wilson | ナイキ |
順位 | 名 前 | ウエア | ラケット | シューズ |
1 | アシュリー・バーディ | フィラ | ヘッド | フィラ |
2 | シモナ・ハレプ | ナイキ | Wilson | ナイキ |
3 | カロリナ・クリスコバ | フィラ | バボラ | フィラ |
4 | ベリンダ・ベンチッチ | ナイキ | Yonex | ナイキ |
5 | ビアンカ・アンドリースク | ナイキ | ヘッド | ナイキ |
10 | 大阪 なおみ | ナイキ | Yonex | ナイキ |
上位メーカー | ナイキ | Yonex/ヘッド | ナイキ |
上記の表のように、男子の最強のウエアはラコステに、ラケットはWilsonに、そしてシューズはナイキが上位となった。
そして、女子のウエアはナイキ、ラケットはYonexとヘッドに、シューズはナイキが上位を占める結果となった。
このことからすると、上位メーカーのものを身に付けると我々素人でもプレーの質がよくなると言えるのかもしれない。(全くないかもしれないが)
特に筆者が気になったのは、Yonexだ。やはり日本のメーカーでもあるし、唯一のメイドインジャパンだからだ。(他社のラケットは全て中国製)
筆者がテニスラケットを初めて手にしたのがYonexの“R30”だ。その後、Wilsonやダンロップ、さらにはその頃新興メーカーのバボラも使ってみた。しかし、どれもしっくりした感覚が得られず、結局Yonexに戻っていった。
その後RD7~などの名機をはじめ、多数のYonexラケットを使ってきた。今でもYonexのVCORE100(息子のおさがり)というラケットを使い続けている。(そろそろ新しいラケットが欲しいのだが)
Yonexの創始者
昨年(2019年11月11日)ある偉大な人物が昇天した。彼こそYonexの創始者である米山 稔という人物だ。
筆者は米山稔が著した「ヨネックス米山稔 負けてたまるか。私の履歴書」を数年前に読んだことがある。その本にあったいくつかのエピソードを紹介していきたい。
苦労の数々
米山稔氏は、苦労の連続を乗り越えた不屈苦闘の人であった。数えきれないほどの試練や失敗を乗り越え自社を世界のYonexに成長させた。
米山氏の会社は新潟県長岡市で漁業用の木製浮きの製造をしていた。しかし、世の流れに対応できずに業績が悪化してしまう。生き残りをかけ、バドミントンラケットの製造の下請け会社になる。
しかし、親会社が倒産し、連鎖倒産の危機に見舞われ、行き場を失ってしまう。そんな中、商売仲間から「米山さん、せっかくここまで来たんだ。今度は自分のブランドでラケットを売ったらどうか。あなたならきっとやれるはずだ。」と勧められる。
バドミントンラケットの製造を始める
その助言通り、苦労の末、自らバドミントンラケット製造会社を立ち上げた。しかし、経営がやっと軌道に乗り始めたころ火災に遭い工場が全焼してしまう。
米山氏は茫然自失する。しかし、不屈の闘志で再びよみがえり、バドミントンラケットの世界でのし上がっていく。その後、テニスの世界に向け挑み始める。
そのころYonexはバトミントンの世界ではある程度の知名度はあったが、テニスの世界では全く無名だった。そこで、村山氏は、テニス界の一流選手に自社のラケットを使ってもらい認知度を高めていく計画を立てた。
会社名は、1967年に「米山製作所」から、「ヨネヤマラケット」に変え、さらに1974年に社名を「Yonex」に改めた
キング夫人の洗礼
そして、当時ランキング1位のビリー・ジーン・キング夫人にねらいを定めた。
キング夫人はグランドスラム女子シングルスで12回の優勝を経験し、「テニスの女王」としてその名を轟かせていた。また、彼女は、男子と女子の賞金の違いに憤り、「われわれは男子選手に劣らない。」と訴え、元世界チャンピオンの男子選手ボビーリッグスと試合をし、勝利していた。
そのような出来事の中心人物のキング夫人は、世界から最も注目されていた。米山氏は、キング夫人が来日した時にアプローチしたが、「私が、この2本(現在契約のラケットとYonexのラケット)を使うと、それぞれ、秒速何メートルのスピードのサーブが打てるのか。」と、ずばずばものを言う夫人の質問に答えられず、おどおどしてしまう。
それを見たキング夫人に「ミスター・ヨネヤマ、それでもあなたはラケット会社のオーナーなのか。」と厳しい洗礼を受けてしまう。
負けてたまるか!
この出来事は、米山稔氏のプライドを粉々にすると同時に、「彼女をうならせるようなラケットを作ってやろうじゃないか。」と闘志に火をつけることになった。
そして、試行錯誤の研究の末、フレームを四角に近い形にしてスイートスポットを広げ、空力抵抗を減らしたYonex独特の形状が完成した。さらに猛勉強し、何度目かのアプローチの末、とうとうキング夫人と契約することに成功した。こうして、キング夫人は村山稔氏の情熱とYonexの品質を認めることになったのだ。
その後、20歳を過ぎたばかりの次世代の女王マルチナ・ナブラチロワと契約を結ぶことに成功した。これは、キング夫人がナブラチロワに口添えをしたからと言われている。ナブラチロワはYonexのラケットを武器に世界ランキング1位まで上り詰めた。
そして、ウインブルドン選手権を始め、グランドスラムでの優勝の瞬間の度に、Yonexのラケットを高々と挙げ、その性能を世界に知らしめた。こうして、Yonexは世界的なブランドの地位を確かなものにしていった。
世界に信頼されるブランドへ
世界的に有名になったが故に、さらなる試練がYonexに降りかかってくる。米国の大手メーカーWilsonがロゴの最初のWとyyを2つ並べた形が商標権を侵害していると訴えてきた。
さらに、Yonexの偽物が世界に出回り、その対処に追われていくようになった。このような数々の問題に真摯に取り組み、一つひとつ解決していくことで世界から信頼されるブランドとしてさらに成長していった。
使用率世界2位
ナブラチロワとの契約後、伊達公子、マルチナ・ヒンギス、レイトン・ヒューイット、スタン・ワウリンカ、ニック・キリオス、ウージニー・ブシャール、ナンジュリク・ケルパー、西岡良仁、国枝慎吾、大阪なおみ、などの選手にラケットを提供し、世界的なラケットメーカーの地位を不動のものとしている。
2019年のウインブルドンでは、使用率が世界第2位になった。
Yonexの世界的な成長は、米山稔氏だけの力ではなく、多くの人の支えや支援があったからではあるが、彼の「負けてたまるか!」という強い気持ちがその原動力になっている。そして、企業が成長し続けるには「時代を先読みする力」こそが最も重要だと訴えている。
新潟県の長岡市の小さな零細企業が世界に挑戦し続け、世界的メーカーに上り詰めたことは、日本人として誇りに思う。その過程の中で、米山氏がテニス界に貢献したものは計り知れないものであろう。
メイド・イン・ジャパン・スピリット
筆者はこれからもYonexラケットを使っていこうと思う。日本人である自分のプレースタイルにぴったり合うからだ。そして、このメーカーには米山イズムである「時代を先読みする力」があるからだ。
新製品が出る度に、最新のテクノロジーの凄さにワクワクしてしまうのがYonexラケットの最大の魅力だ。そして、筆者にとって重要なのは「メイドインジャパン」の文字がラケットフレームに刻印されていることだ。
このロゴには、日本の物づくりの完成度の高さと信頼性、さらには日本人の「負けてたまるか」というスピリットが込められている。
国籍は世界
最後に米山氏の哲学を紹介したい。
Yonexラケットを使う2名の選手の試合の前「どちらの選手を応援するのですか?」と、聞かれることがしばしばある。その度に「両方の選手」と、答えている。
Yonexを愛用する選手であれば、分け隔てあってはならない。「国籍は世界」、それが私の哲学である。
さあ、みんなで称えよう“メイド・イン・ジャパン・スピリット”を!
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