男女テニス界における賞金格差是正の歴史
1973年の全米テニス協会が発表した優勝総額。女子は、男子の1/8だった。現在のお金に置き換えて1番賞金総額が多い全米オープンで考えてみる。男子選手の賞金は約4億円なので、女子選手というと5千万円位になる。この差額はあまりにも大きく、明らかに男女差別だ。
この差別に対してビリージーン・キングが憤り、男子の元チャンピオンのボビー・リッグズと女子選手の復権と名誉を掛けて試合をすることになる。昨年映画化された「バトル・オブ・セクシーズ」で、その出来事の詳細を知ることができる。その後、男女の賞金総額の差は是正されていった。
現在はキングの活躍もあって優勝賞金は同額である。キングが世界のテニス関係者から尊敬される所以であろう。
車椅子テニス界における賞金格差
しかし、もう1つ是正しなければならないものがある。それは、車椅子テニスとテニスの格差のことだ。日本には、車椅子テニス界のスーパースター、国枝慎吾と上地結衣がいる。世界に誇れる二人の選手だ。二人とも世界最強選手といえる。このスーパースターの賞金額を調べてみた。なんと一番賞金が多い全仏オープンでも430万円と、その少なさに驚かされる。
また、車椅子テニス選手は、車椅子のメンテナンスに年間10万円かかるそうだ。遠征費も車椅子を運ばなければならないので、そのための費用が必要になるだろう。世界を転戦し、競技を続けていくのは経済的にたいへんなのではないだろうか。優勝に絡むことができない選手は、さらに過酷な状況だろう。なぜこのような格差が生まれるのだろうか。それは、やはり人気である。人気があるかないか、TV放送されるか否か。大勢が見るか見ないか。そして、金のあるスポンサーがつくかつかないかなのだろう。
さて、我ら日本が誇る車椅子テニスのスーパースター国枝慎吾の紹介をしてこう。
国枝慎吾選手プロフィール
千葉県出身の34歳、右打ち。
【4大大会成績シングルス】
- 全豪 優勝(2007-2011・2013-2015・2018)
- 全仏 優勝(2007-2010・2014・2015.2018)
- 全英 ベスト4(2017)
- 全米 優勝(2007・2009-2011・2014・2015)
- シングルス22回優勝
【4大大会成績ダブルス】
- 全豪 優勝(2007-2011・2013・-2015)
- 全仏 優勝(2008・2010-2013・3015-2016)
- 全英 優勝(2006・2013・2014)
- 全米 優勝(2007・2009-2011・2014・2015)
- ダブルス20回優勝
キャリア自己最高ランキング
- シングルス1位
- ダブルス1位
【出典:ウィキペディア】
あまりにも素晴らしい成績だ。
錦織選手がまだ、ランキングが下位の頃、現代テニスの王者であるフェデラーに日本人記者がインタビューで「なぜ、日本のテニス界には世界的な選手が出てこないのですか?」と尋ねた。その際、
「何言ってんだ!日本には国枝がいるじゃないか!」
と言ったそうだ。このことから国枝選手は、錦織選手や大坂選手よりも、世界的には有名な選手だと言える。
上地結衣選手はどうだろうか。
上地結衣選手プロフィール
兵庫県出身 24歳
【4大大会・シングルス】
- 全豪 優勝(2017)
- 全仏 優勝(2014・2017・2018)
- 全英 ベスト4
- 全米 優勝(2014・2017)
- シングルス優勝回数5回
【4大大会・ダブルス】
- 全豪 優勝(2014・2016・2018)
- 全仏 優勝(2014・2016・2017)
- 全英 優勝(2014・2017)
- 全米 優勝(2014)
- ダブルス優勝12回
【出典:ウィキペディア】
国枝選手と比較すると優勝回数が少なめだと感じるが、年齢はまだ24歳である。これからとてつもない記録をつくり続けていくと予想させる輝かしい戦績である。やはり、上地選手も日本の車椅子テニス界のスーパースターである。この選手でさえ、優勝賞金が約400万円とは、少なすぎる。
お金がかかる車いすテニス
さらに、車椅子テニスプレーヤーは、商売道具の競技用車椅子を持たなくては、ならない。国枝選手の競技用車椅子は約45万円もする。普通の車椅子の価格が5万円程度なので、相当高価な車椅子である。しかし、もっと凄い猛者がいる。
ライバルのウデ選手だ。彼のハイテク車椅子は、なんと1500万円もするそうだ。この価格は、優勝賞金の3倍以上である。大きな大会で3回以上優勝しなければもとはとれない。ウデ選手には車椅子を購入するために強力なスポンサーがついているのかもしれない。
さて、話をもとにもどそう。年収はどうだろう。錦織選手は、約34億円、国枝選手は約5000万円。錦織選手の年収の2パーセントにも満たない。この差には、あきれてしまう。
スポンサーの数よりも、スポンサーとの契約金額により年収が左右されるはずだ。国枝選手は、ユニクロ、HONDA、ヨネックス他など10ほどの企業がついている。錦織選手は、ユニクロ、日清、ウィルソンなど15、6社のスポンサーがついている。
国枝選手より5社多いだけだが、一社ずつのスポンサー料がすごい。スポンサー全社の契約金の合計がなんと推定18億円という。(2015年当時)それにもかかわらず、スポンサーに名乗りをあげる企業があとを経たない。錦織選手のブランド料はこんなにも高騰している。このことから、まだ車椅子テニスはテニスほどメジャーなスポーツではないことがわかる。
では、この大きな差を縮めるには、どのようにしたらよいだろう。
車いすテニスの普及のためにできること
まず、車椅子テニスの試合を観ることから始めよう。WOWOWは数年前から車椅子テニスの放送を始めた。筆者はこのころから、国枝選手の活躍を知ることができるようになった。WOWOWは、車椅子テニスの選手の地位を向上するために貢献していると思う。錦織選手や大坂選手の試合の放送も、むろんあるので、テニスファンなら加入しても決して損はない。
TV放送で試合を観戦するのもいいが、会場に足を運んで、試合を観ることが必要だ。TV放送を見てわかったことだが、車椅子テニスは国際大会の決勝戦でさえ空席が目立つ。健常の選手の試合では準々決勝でさえも大観衆だ。いかに車椅子テニスの人気度が低いのかがわかる。WOWOW以外にも、車椅子テニスの放送が徐々に増え、その人気が高まることを期待したい。
もう1つ重要なことは、車椅子テニスの試合に足を運び、その臨場感を体験することだ。どのスポーツでもそうだが、選手のプレーをライブで観ることは、映像では決して得ることのできない臨場感や選手同士の緊迫感を感じることができる。スポーツのライブ感覚は、TVの技術が向上し多チャンネルサラウンド化しても、ディスプレイが4Kや8Kになり画質が向上しても決して太刀打ちできないだろう。
車椅子テニスは、1979年にアメリカで産声をあげた。第1回のオープン大会もアメリカで行われた。そして、車椅子テニスは、海を渡りオーストラリアへ行ったことをきっかけに世界中に広がっていく。そして、日本では車いすの聖地ともいえる飯塚市から全国に広がっていった。
その飯塚市で今年開催される車椅子テニスの試合について知らせておこう。
「飯塚国際車椅子テニス大会」車いすテニス世界6大大会の1つ
- 期日 2019年4月23日(火)~4/28(日)
- 場所 福岡県飯塚市仁保8―30
- HRL https://japanopen-tennis.com/
インターネット上にある確かな情報はこの「飯塚車いす国際大会」だけであるが、昨年(2018年)開催された試合は、国内ローカル大会が12もあった。国内IFT大会は7つである。今年(2019年)は、HPの掲載はまだだが、少なくとも20以上の大会が全国で行われるはずだ。
料金は、全日本テニス選手権の、プラチナシートは4500円程度だ。この金額は健常のテニスの試合より比較的安いのではないだろうか。このように全国各地で試合が開催され、チケットも安価である。ぜひ、車椅子テニスの試合を見て、選手の環境の向上に協力しようではないか。
最後に「飯塚国際車椅子テニス大会」の発展に命を懸けた“星野 治氏”を紹介したい。
車椅子テニスの普及に尽力した星野治氏
星野氏は、総合せき損センターのケースワーカーだった。そして車いすの患者に車いすテニスをさせていた。当時は、身体障碍者にスポーツさせることに否定的な雰囲気があったが、患者たちは車いすテニスに生きる喜びや意味を見出し、生き生きし始め、そして、まわりの意識を変えていった。
星野氏は数多くの偏見と闘いながら選手の練習のためにテニスコートの確保に走りまわった。そして、遂に1984年「九州車いすテニスクラブ」を発足させることになる。このコートで1時間の練習のためだけにわざわざ他県から来るプレーヤーもいたそうだ。その後、センター内にテニスコートを作るために働きかけたり、テニス大会を開催のするための資金繰りをしたりして、力を注いだ。
その甲斐あって、1985年に第1回目の国際大会を開くことになった。その後の17回の大会では、優勝者は全て外国人だった。星野氏はこの大会で日本人選手を優勝させることが悲願だった。しかし、その彼は病魔に襲われ、18回目の大会期間中に永遠の眠りについた。
18回目の優勝者は日本人の斎田悟司選手だった。
現在、車いすテニスプレーヤー世界で約700人いる。そのプレーに憧れて車いすテニスを始める者も多いと聞く。車いすテニスは、障碍者に生きる希望さらには、人生の目標を与えている。さらに、スポーツを通して生活を豊かなものにしている。今以上に車いすテニスのことを世界中に、広め盛り上げていきたい。そして、競技者とともに支援している人々も応援し、その活動に少しでも貢献したいではないか。
筆者は、4月に「飯塚国際車椅子テニス大会」を観戦しに行こうと思っている。もちろん車いすテニスの発展のために。そして、日本車いすテニスの父ともいえる星野氏の思いを万人に伝え、広めるためである。
「さあ、みんなで観よう!車いすテニスを!」
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