グランドスラムで勝たなくてはいけない選手、ズベレフ
2019年グランドスラムがすべて終了。結果はというと、全豪オープンとウィンブルドンがノバク・ジョコビッチ、全仏オープンと全米オープンがラファエル・ナダル。例年どおり、BIG3の優勝となった。そう、例年どおり、なのだ。2018年はといえば、全豪がロジャー・フェデラー、全仏がナダル、ウィンブルドン、全米がジョコビッチ。その前年の2017年だって、4大会ともBIG3だ。
はたして、テニス選手がこの3人しかいないのかと疑いたくなるような現状。もちろんそんなことがあるわけがないが、そう思えても仕方ない。もちろん粋がいい若い選手がいないわけではない。グランドスラムにいつ勝ってもおかしくない選手が何人かいる。勝たなくてはいけない選手がいるのだ。それでも、グランドスラムではBIG3がいまだに君臨している。
前置きが長くなったが、その勝たなくてはいけない選手の筆頭が、アレクサンダー・ズべレフだといえるだろう。数年前にはじめてズべレフを見たとき、「このイケメンはいったい?」とまず思った。そしてスケールの大きいテニスを見て、「おいおい、すごいじゃないか!」と感じ、「スター誕生だ!」と思ったものだ。それから期待して彼を見てきた。ここまでの実績は順調といえる。ただし、グランドスラム以外では、なのだ。
アレクサンダー・ズべレフという男
簡単にズべレフについて紹介しよう。ドイツのハンブルクの出身である。1997年の生まれで現在は22歳。ツアーデビューは2013年。右利きで身長は198センチ。恵まれた体格だ。その長身から繰り出されるサーブは、200キロをゆうに超え、220キロ前後にも到達する。フォア、バックとも強力なストロークをもち、リターンもいい。
そして、ネットプレーもうまい。ネットプレーがうまいのは、同じくプロテニスプレーヤーである兄のミーシャ・ズベレフがサーブ&ボレーヤーからだろうか。ネット際に落とす柔らかいタッチのボレーは見事だ。
さらに、2メートル近くの長身選手というとフットワークに難があるというイメージがあるが、むしろ良いといってもいいだろう。長い手足をいっぱいに使い、さらに素早い切り替えしで相手の厳しいボールに対応する。その守備範囲の広さも長身選手のそれではない。
こうして考えるとおよそ弱点のない選手だといえる。だから、当然ながら勝てる。ツアーの初優勝は2016年サンテクペテルブルク・オープン。19歳の時だ。翌年2017年、20歳でグランドスラムの次のツアーカテゴリー(マスターズ1000)であるBNLイタリア国際に優勝した。
2017年は最終的にツアー5勝。マスターズ1000で2勝と大きな飛躍の年となった。それも特筆すべきはクレーコート2勝、ハードコート3勝とコートサーフェースに関係なく優勝していること。芝でも準優勝があり、苦手サーフェースがないことが素晴らしい。年間の最終ランキングを4位とし、大躍進している。
2018年も4勝。マスターズ1000であるムチュア・マドリード・オープンで優勝し、最終戦ATPファイナルズでは準決勝でフェデラー、決勝でジョコビッチを破って初優勝。21歳にしてATPファイナルズまでも優勝してしまったのだ。十分すぎる、順調すぎるキャリアだといえる。
さて、2019年。残念ながら物足りなかった。ツアーでの優勝はあったものの、カテゴリーは250。9月の時点でその1勝のみはファンとしては不満だろう。
ズべレフはBIG3に強いか?弱いか?
ズベレフの基本情報を紹介したが、あえてグランドスラムには触れなかった。そのグランドスラムの話の前にズベレフのBIG3との対戦成績を確認してみよう。
- 対ノバク・ジョコビッチ 2勝3敗
- 対ラファエル・ナダル 0勝5敗
- 対ロジャー・フェデラー 3勝3敗
ジョコビッチ、フェデラーに対してはほぼ互角だが、ナダルには一度も勝てていない。ナダルとの試合を見ているとサーブもストロークも、ショット自体には遜色がないように思える。しかし、勝てていない。それはなぜか。おそらく勝ちたいと思う執念のようなものが最終的にナダルのほうが優っているのではないか。
ちなみに2019年は9月時点でズベレフとBIG3との対戦はジョコビッチ戦の1試合だけだ。それはどういうことか。2019年のズベレフはBIG3と対戦するところまで勝ち進めなかったということだ。
ズべレフとグランドスラム
とにかく、物足りないのである。22歳でATPツアー11勝、マスターズ3勝、ATPファイナルズも優勝1回。すでに素晴らしい実績である。しかし、ファンが本当に勝ってほしいのはグランドスラムなのだ。それなのに2019年時点で準決勝にすら進出していない。さて、そのズべレフのグランドスラムの成績を確認してみよう。
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 通算成績 | |
全豪オープン | 不参加 | 予選敗退 | 1回戦 | 3回戦 | 3回戦 | 4回戦 | 7勝4敗 |
全仏オープン | 不参加 | 予選敗退 | 3回戦 | 1回戦 | ベスト8 | ベスト8 | 10勝4敗 |
ウィンブルドン | 不参加 | 2回戦 | 3回戦 | 4回戦 | 3回戦 | 1回戦 | 8勝5敗 |
全米オープン | 予選敗退 | 1回戦 | 2回戦 | 2回戦 | 3回戦 | 4回戦 | 7勝5敗 |
デビューしたての2014年から2015年は仕方ない。19歳でツアー初優勝した2016年の全仏オープン、ウィンブルドン3回戦は悪くない。年間5勝した2017年はどうか。ウィンブルドンの4回戦が最高成績。全仏では1回戦敗退だ。
全豪で負けたのはナダル。フルセットの素晴らしい試合ではあった。まあ仕方ないと納得はできる、ナダルなら。ただ、全仏はフェルナンド・ベルダスコ、ウィンブルドンはミロシェ・ラオニッチ、全米はボルナ・チョリッチに負けている。もちろん、楽な選手ではないとしても、負けてほしくない相手だった。
特に全米ではズベレフは第4シードだった。だが、同世代のチョリッチに2回戦で敗退。この結果は残念でしかない。ツアーで5勝もしていることを考えると、もっとなんとかなるんじゃないかと思わざるをえない。
2018年はようやく全仏でベスト8に顔を出してくれたが、それ以外は全て3回戦敗退である。まあ、1、2回戦負けという早期敗退がなかったからよいのだが、またしても負けた相手がよくない。全仏のドミニク・ティエムも次代のナンバーワン候補ではあるから仕方ないとはいえ、他の大会では2017年同様、負けてほしくない選手に負けている。
期待した2019年とその結果
さらに期待したのは2019年。2018年の最終戦ATPファイナルズでジョコビッチを破って優勝した勢いをそのまま全豪に持ち込んでほしかった。しかし、その全豪は4回戦でまたもラオニッチに負けてしまう。それもストレートでだ。
ラオニッチの調子が良かったとか、ネットプレーが冴えていたとか、バックハンドのスライスが効果的だったとか、言いようはいろいろあるが、それでも未来のナンバーワン候補のズベレフには何とかしてほしい。ベンチに戻ってから、ラケットをコートに何度も叩きつけて破壊するなんてことをしているぐらいなら他にやることがあるはずだ。ラケットを破壊しても状況は何も変わらない。
全仏は前年2018年に続いてベスト8。負けた相手はジョコビッチだから仕方ないとは言えなくもない。ただ、ズベレフにはグランドスラムのベスト8は当たり前で、最低限のラインであってほしいのだ。ところが、ウィンブルドンはなんと1回戦で敗退してしまう。相手は124位のイジ・ベセリー。ベセリーが2018年ウィンブルドンでも4回戦まで進出している芝のコートが得意な選手とはいえ、何も負けることはないのだ。
ベセリーは、全豪で対戦したラオニッチ同様、スライスを効果的に使い、ネットに出てくるのだが、そうしたスタイルにズベレフはまたも対応できなかった。試合中の対応力がないといえばそれまでだが、事前に対戦相手は分かっているのだから、チームとしてもう少し準備はできなかったのかとさえ思う。
そして、全米。4回戦でディエゴ・シュワルツマンに敗れている。シュワルツマンは身長170センチでズベレフとの身長差はじつに約30センチ。小柄ながらも驚愕のフットワークと強力なストロークのシュワルツマンに関しては、だからどうだというわけでもないのだが、試合前のフォトセッションなどで二人が並んでいるのを見ると単純に驚く。
それはそうと、この試合はシュワルツマンの試合巧者ぶりが素晴らしかったのだが、ズベレフはなんでもないミスで自滅した部分もあるような気もする。例えば、試合の流れを決めるような大事なブレークポイントで、シュワルツマンのそれほど厳しくないセカンドサーブを簡単にネットにかけてしまう、もしくはアウトボールしてしまう。結局ブレークできず、キープされる。そうなると当然、ゲームの流れが悪くなり、今度はズベレフが自分のサーブをブレークされてしまう。それでは勝つことはできないだろう。
さらに、ズベレフのプレーを見ていて思うのは繋ぎのショットをあまりにも簡単にミスをするのだ。例えば、BIG3はどうか。相手のスーパ―ショットや自分で決めにいく強いショットならミスになることもあるが、繋ぎのショットをミスすることはほぼない。しかし、ズベレフは気の抜けた力のないショットを打ってネットするのだ。これでは対戦相手はあまりにも楽だろう。
ズベレフがグランドスラムに勝つためには?
ズベレフはナンバーワンになる資質、グランドスラムに勝つ資質が間違いなくあると思うが、未だに不安定な部分が見え隠れする。マスターズ1000で3勝していてもグランドスラムの準決勝にすら進めない原因は何か。グランドスラムで負けた試合でズベレフに不足しているのは次の3つのポイントが挙げられると思う。
- さまざまなタイプの相手に勝つための戦略性と対応力
- 大事なチャンスに、自分からポイントをもぎ取る、またはポイントを取るために仕掛ける、という貪欲さ
- 繋ぎのショットひとつ疎かにしない集中力と忍耐力
もちろん、グランドスラムのプレッシャーもあり、普段できることをできなくさせているということもあるかもしれない。しかし、いつまでもそれではダメなのだ。BIG3はすべての試合で上のようなポイントを高いレベルで実現することができるから強いのだ。
何度もいうが、まずは負けてはいけない選手に負けないようになることが、安定して上位に勝ち進むことにつながり、さらに優勝という最高の結果をもたらす道筋となる。その先にナンバーワンの称号があるのだと思う。ズベレフの今後に大いに期待したい。
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