【この物語の個人名、団体名等は仮名ですが、後は、ほぼ事実です。】
ベイビーステップというテニス漫画がある。高校1年からテニスを始めた主人公が、テニスを通して成長していき、試行錯誤しながらプロテニスプレーヤーになるストーリーである。主人公が試行錯誤しながら夢を追い求めほぼ達成していく。しかし、現実は厳しいものである。
この話は、地方の中学校のソフトテニス部でレギュラーにもなれなかった少年が、全国レベルの強豪高校のテニス部に入部した末、とほうもない苦労と努力を積み重ね、大学テニス部のキャプテンとして、全国大会に出場し、大学王者に挑む物語である。
「明後日の大会の団体メンバーを発表する。」
「野島・浅川ペア、佐々木・国枝ペア、吉田・内田ペア、補員は、山田・齋藤ペアだ。以上。全員、練習開始!」
ソフトテニス顧問の衣川は顔色一つ変えることなく言い放った。
大地は、思わず空を見上げた。団体メンバーに、自分とペアの佐藤の名前は、無かったからだ。
半年前は、団体メンバーに選ばれていた、部活動が終わっても、ナイター施設のあるコートで練習して頑張った。さらに、スタミナをつけるための神社までのランニングも続けていた。しかし、1年生に全国レベルの選手が2名入部して来たことでテニス部内の勢力図と大地の立ち位置は変化した。
梅雨空の雲の隙間から、頼りない太陽光がわずかな線を紡いでいる。今の気持ちと空模様があまりにも似ていることが辛さに拍車をかけている。
大地は、その後の練習を無機質のうちに消化し、失意の癒されぬまま岐路についた。部室を出ると隣のコートでは、女子部員が、まだ練習をしていた。女子特有の底抜けに明るい掛け声が校舎の白い壁に反響し、いつもより大きく、耳障りだ。
大地は、
「ハーッ。」
と長いため息をついた。
明日は、現役最後の試合だ。案山子と揶揄される佐藤とのペアの戦いは、いつもワンパターンだ。ふたりの戦略は後衛の大地がひたすら走り回って球を拾い、佐藤はストレートケアと滅多に訪れないチャンスボールをスマッシュしてポイントする。明日は、ストレート敗け(0-4)だけは避けることを祈りながら歩いた。
次の日、愛浜テニスコートで行われた試合は1―4で完敗だった。大地の父は最後の試合と知り、めずらしく応援に来ていた。県外遠征の際は、いつも同行してくれた母の前では、少しでも上達したことを見せたかった。しかし、両親の前であまりにも不本意な結果で大地の中学ソフトテニス人生が終わった。
翌日からレギュラーメンバーは、団体戦とそれぞれの個人戦に向けて、練習を開始した。全国大会に出るために中国大会で優勝することを目標としている。
その目標を奪われ引退した大地は、コートの傍を通りながら
「このままでは、終われない。」
と呟いた。
- 投稿者プロフィール
- かたさぶろう
最新の投稿
-
2020.3.18 シャイン もう一つのベイビーステップ【第11話】悲壮
-
2020.3.11 日本が誇る最高のテニスメーカー~メイド・イン・ジャパン・スピリット~
-
2020.3.8 テニスを上達させるための7つの方法
-
2020.3.3 「テニスウエアの革命」7人の勇者
コメントを投稿するにはログインしてください。