諸刃の剣
諸刃の剣とは『両辺についた剣は、相手を切ろうとして振り上げると、自分をも傷つける恐れがある』という意味がある。また、『一方では非常に役に立つのだが、他方では大きな害を与える危険性があるもののたとえ』という意味もある。
6月1日の全仏オープンでの大阪なおみの試合は、まさに、諸刃の刃が振り回された試合だった。相手はチェコのカテリナ・シニアコバ。シニアコバはダブルスランキング1位とはいえ、シングルスランキングは42位と遥かに格下の選手なのだが、ストレートで敗けてしまった。
世界ランキング1位の女王らしからぬ不本意な内容だった。
第1セット
そして、4‐4で迎えた第9ゲーム。大阪はパワーがあるので一発で決めることができる。そのためか、力でねじ伏せてしまおうとするようショットが目立っていった。ディフェンスのよいシニアコバに対して一発でポイントがとれないためか少しずつ厳しいところを狙っていった。そのうち、大阪の球は、ベースラインやサイドラインを割ってしまいとうとうブレークされてしまったのだ。
4‐5で迎えた第10ゲーム0‐40となりトリプルのブレークチャンス。筆者は、これでブレークし、5‐5になるものだと思っていた。しかし、大阪のパワーショットはことごとくネットし、40-40。しかし、またもやパワーで押し込み、アドバンテージレシーバーとなるが、大阪のショットがまたもネットにかかり、第1セットを落としてしまう。大阪のアンフォーストエラーが非常に目立つ第10ゲームだった。
合計7つのブレークチャンスがあったが、それをものにできなかった。
第2セット
第2セットは第1ゲームをいい感じでキープした。ここから息を吹き返すのかと思いきや、常にポイントを先行されていく。第3ゲームでは、サーブ&ボレーでポイントを奪う。しかし、サーブ&ボレーは、これが最初で最後。このような意表をついた攻撃的なプレーを随所に入れることで相手を翻弄しプレッシャーをかけることができるのだが。
第3ゲームも相変わらず、シニアコバは粘る。大阪のストロークにより左右に大きく振られるが驚異的なディフェンスを続ける。その内大阪の打ったエース級のストロークがネットの白帯にかかり、シニアコバはさらに元気になる。大阪はどんどんナーバスになっていく。
最後は大阪のストロークが大きくベースラインを超えゲームセット。
シニアコバはエース級のショットをほとんど打たずして勝利した。彼女の驚異的な精神力とディフェンス力が大阪の心を砕いた試合だった。持ち前のパワーショットはコントロールを失いネットかラインオーバーのいずれかで失点を重ねていった。特にネットの白帯にかける場面が多かった。
シニアコバは、ディフェンスではスライスで大阪のバック側に返球する場面が多かった。フォアよりバックの方がフラット気味なので、球に角度をつけさせないためなのだろう。また、スライスは高く弾まない。これにより、大阪のアン・フォースト・エラーを量産させることに成功した。非常に頭の良い選手だ。
結局4-6 2-6 のストレートとなり完敗だった。
ウインブルドンでは?
ハードコートの得意な大阪選手にとって、クレーコートからグラスコートまでの期間は嫌なシーズンなのだろう。しかし、日本人初のグランドスラム達成を果たすには、このクレーと芝のシーズンを攻略しなければならない。次は、いよいよウインブルドン選手権だ。
芝のコートは球がよく滑るらしい。だからひと昔はストローカーよりボレーヤーの方が有利だと言われていた。今はサーブ&ボレーをする選手がいなくなったのでわからないが。
芝のコートではボールはあまり弾まない。そして、スライスはさらによく滑る。大阪のパワーショットは力を発揮できるのだろうか。心配だ。
この原稿を書いている際にもネイチャークラシックで世界ランキング43位の選手に敗れたというニュースが飛び込んできた。おまけに、記者会見を拒否して63万円の罰金を科せられた。さらに、1位も陥落してしまった。いやなニュースばかりだが本当に大丈夫なのだろうか。
ウインブルドン選手権で優勝するには?
まず、我慢することである。打っても、打っても相手に返され続けるだろう。それでも、我慢して打ち続けることが必要だ。そのためには、集中力を持続させ粘り強く戦うことが求められる。端的にいうと「がまんくらべ」だ。メンタルが最も重要である。彼女のストロークなら、いつか必ずチャンスが訪れる。そんなときこそ、エース級のショットを確実に打ち込みポイントを重ねたい。
もう一つは、1、2回戦をなんとか勝つことだ。ウインブルドンは3回戦ころから少しずつ芝が痛み始める。それに応じてだんだん高く弾むようになる。ボールのすべり方も少しずつ緩やかになる。そうなれば大阪選手のパワーが生かされ勝率が高まるはずだ。
決勝ではほとんど芝は削り取られてしまい、硬めのクレーコートのような状態になる。ボールはハードコートのように高く弾みだす。このようにサーフェースが変化することで大阪が好きな疑似ハードコートとなり、彼女の攻撃が生きてくることだろう。
最後に様々な球種を打ち分けたい。スライスやロブ、さらにはナダルのようなエッグボールやムーンボールなど、そして、サーブ&ボレー、ドロップショットなどだ。決して同じテンポで打つのではなく、チェンジオブ・ペースで攻めていくのだ。
諸刃の剣から日本刀へ
このように現在の彼女は、『諸刃の剣』である。対戦相手も、そのことを知り、粘り強く、いやらしく戦ってくるだろう。しかし、ここで敗けてはならない。世界ランキング1位の冠と、2大会連続優勝は、決してまぐれではない。実力は十分に備わっている。周到な作戦と強靭なメンタルがあればきっと優勝できる。
そして、大阪には『諸刃の剣』から『日本刀』にスイッチすることが望まれる。
そうだ強靭な武器とメンタルを研ぎ澄まし、切れ味抜群の『日本刀』のような選手になってほしい。(日本刀は鉄板をも切り裂く世界最強の刀と認められている。)
是非見たい。大阪なおみがウインブルドンのセンターコートに立って、笑顔でシルバープレートを掲げる姿を。
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