はじめに
テニスファンならだれもが1度はテニスに関係する映画を観たことだろう。または、機会があれが観てみたいと思うであろう。筆者は前回このサイトのブログで「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」と「ボルグ/マッケンロー 炎の男と氷の男」の2作品を紹介した。この2つの作品は事実をもとにしてつくられている。
今回は、完全なるフィクションの作品を紹介したい。フィクションはノンフィクションに比べ創作や演出に自由度があり、ノンフィクションにはできない物語のおもしろさがある。紹介する作品はいささか古いが、古い作品ならではのテニスの歴史や文化を感じることができるだろう。さらに、サスペンス仕立てなので『競り合うテニスの試合』以上にハラハラ・ドキドキ感を味わうことができる。
是非、作品を鑑賞し、テニスに対する愛と造詣をさらに深めていただきたい。
『マッチポイント』テニスプレーヤーは完全犯罪者?
マッチポイントとは
後1点で試合が終了するときのポイントのことである。マッチポイントを握っている選手からすると次のポイントを簡単に手に入れ試合に勝利する場合と、相手に何度も何度も凌がれ、そこから驚異的な粘りで逆転され、最終的には試合に負けてしまうことだってある。
このように、試合の結果が運命の一球によって左右されることはテニスの試合ではよくあることだ。この映画では、1つの指輪の行方が人生のポイントを大きく左右する役割を果たす。
あらすじ
プロテニスプレーヤーのクリスは、ツアーを回ることに自分の限界を感じ引退する。その後、生活のためにロンドンにある高級テニスクラブでレッスンコーチを始める。その内スクール生の1人、上流階級のトムと親交を深めるようになる。トムとの出会いをきっかけに、彼の妹のクロエやその家族とも親しくなっていく。
クリスはトムの家で彼の婚約者であるセクシーな女性ノーラと運命的に出い、少しずつ歯車が狂い始める。クリスは、トムの婚約者と知りながら次第にノーラに惹かれていく。
クリスはクロエと結婚し、彼女の父の会社に雇われ重役となって裕福で安定した生活を手に入れることになるが、ノーラとの密会は重ねていく。クリスは次第にノーラとの関係が重荷にっていく。そして、邪魔者になったノーラを殺す計画を企てることになるのだが…。
みどころ
スカーレット・ヨハンソン演じる妖艶なノーラ
大女優スカーレット・ヨハンソンが素晴らしい演技をしている。ヨハンソンの一番美しいころの作品であろう。
主人公が夢中になるほど魅力的な美しい女性をセクシーに演じている。怪しい視線と抜群のプロポーションから醸し出す雰囲気はとてつもない妖艶さを醸し出している。主人公が危ない橋を渡りながらも逢引きを繰り返してしまうのもうなづけるような演技だ。
主人公の成り上がりと人間性の破綻
貧乏なクリスはテニスプレーヤーをあきらめ、生活のためにテニスコーチを始めた。そして、スクール生の上流階級出のトムと出会う。その妹や父親に気に入られ、妹と結婚すると同時に、義父の口利きで企業に入り、役員、さらに重役まで上り詰める。
ノーラと出会うことがなければ完璧なサクセススストーリーだ。クリスは、トムと出会ったことで、輝かしい未来を手に入れるとともに魅力的なノーラも手に入れることになる。欲しいものがすべて手に入った人間は、その地位にしがみつきたいがために自己中心性を発揮する。そして殺人計画を考える。全てを失う可能性があるのにもかかわらず、冷静な判断ができないほど人格が破綻してしまったようだ。しかし、‥‥
犯罪者のタイプ
犯罪者は主に2つのタイプに分かれるのかもしれない。1つは根っからの犯罪者でお金を手に入れるために四六時中悪事を考え犯罪を日常的に実行してしまうパターン。
もう1つは善良な人間が人生の歩みの中から小さな犯罪を積み重ねてしまい、そのうちに人格が破綻し、大きな犯罪を犯してしまうパターンである。クリスはまさにこのパターンの犯罪者だ。善良な普通の人間が成功していく中で、潜んでいた欲が人間性を支配し、少しずつ良心がそぎ落とされ、犯罪を積み重ねる。そしてとうとう殺人まで犯してしまう。最初は善人だったクリスが変貌する様に見る者は大きな衝撃を受けるだろう。
テニスシーン
テニスシーンはあまり多くはない。クリスがトムやクロエに球出しをしてストロークの練習をしている数シーンがある。
舞台がイギリスなので芝のコートかと思いきやコートはハード。コート周りには高級テニススクールらしく芝や草花が美しく咲き誇っている。建物はクラシカルで非常におしゃれだ。テニスファンならこんな優雅な場所でテニスをしてみたいと思うはずだ。
テニスウエアはフレッド・ペリーやラコステなどを確認することができた。テラスでの会話の中に「アガシとヘンマンどっちが強い。」というのがある。この言葉から時代が2000年前後のころの物語だと予想できる。
衝撃のラスト
終盤で、クリスは殺人事件をした際の証拠となる指輪を湖に投げ捨てるシーンがある。水中に入れば完璧な証拠隠滅となるのだが、手すりにぶつかって垂直に跳ね上がる。テニスボールが白帯に当たり、真上に上がってしまう瞬間と同様だ。
テニスの試合ではボールが相手側に落ちるのか、自分側に落ちるのかでは状況が大きく異なる。勝敗の運命が大きく変わることもある。
この物語では、指輪は湖に入ることなく路上に落下する。これで主人公の人生は終わったと思ってしまうのだが実際はそうではない。意外な人物に拾われたことで、クリスへの疑いは晴れてしまうのだ。
おわりに
予想外の展開スリリングに進んで行くストーリーはテニスの試合を観戦して手に汗握るあの感覚と似ている。特に元プロテニスプレーヤーが試合で崩れるのではなく、人間性がすこしずつ崩れていく様子は、予想できない展開のおもしろさがある。
この映画を鑑賞して、主人公のテニスプレーヤーを反面教師とし、テニスを通してより人間性を高めてみてはいかがですか?
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