(出典画像)GAGA 映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』公式サイト
先日『1980年のウィンブルドン男子決勝 ビヨン・ボルグとジョン・マッケンローの試合』をもとにした、映画「ボルグ/マッケンロー 炎の男と氷の男」を鑑賞した。
これほどまで疲れを感じる映画を観たことがない。それは、ボルグとマッケンロー二人にのしかかる重圧に気持ちが押しつぶされててしまったからだ。さらに、クライマックスの試合のリアルさに感動したからである。この作品は、それだけ完成度が高い大傑作のテニス映画なのだ。
昨今、映画界はドキメンタリーや実話をもとにした作品が目白押しだ。伝説のバンド「クイーン」をもとにして作られた「ボフェミアン・ラプソディー」やビリー・ジーン・キングの活躍を描いた「バトル・オブ・セクシーズ」などのヒットなど記憶に新しい。
「ボフェミアン・ラプソディ」ほど、ヒットはしなかったが映画作品としては高いレベルなのでテニスファンなら必見だ。
映画を観て一番印象に残ったことは、ボルグとマッケンローの試合は壮絶だったということだ。
(出典動画)GAGA 映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』公式サイト
ボルグは1976年からウインブルドン選手権において、4連覇を達成していた。1980年に5連覇目を達成する可能性が高まっていた。そのころ、ジョン・マッケンローというアメリカの若者がめきめきと頭角を現し、ボルグの連覇を脅かし始める。
3時間55分を要したその激戦は、30年以上も経った今でもウィンブルソン伝説の試合として、語り継がれている。
特にタイブレークでの攻防は、テニスファンならだれもが手に汗を握るものである。アクション映画を凌ぐ、迫力満点の映像が堪能できる。
結局 6-1, 5-7, 3-6, 7-6, 6-8 のスコアでボルグが勝利し天を仰ぎ、マッケンローは、敗けて頭を抱えることになる。
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ビヨン・ボルグ
国籍 :スウェーデン
身長:180cm
利き手:右
バックハンド:両手打ち
デビュー:1972年
引退:1983年
全豪:3回戦(1974)
全仏:優勝(1974・75・78-81)
全英:優勝(1976-80)
全米:準優勝(1976・78・80・81)
優勝回数11(仏6・英5)
ツアー通算:68勝
シングルス:64勝
キャリア自己最高ランキング シングルス:1位(1977年8月23日)
ウィンブルドン「41連勝」
1976–81グランドスラムを1セットも落とさずに優勝「3回」
グランドスラム2大会で5回以上優勝勝
ウィンブルドン「5連覇」1976–1980
19761年シーズンで49連勝
1978年 25歳以下で59タイトル獲得
ティーンエージャーで16タイトル獲得
プレースタイル:強烈なトップスピンを打つベースライナー
冷静沈沈着(あだ名:アイスマン)
(出典)Wikipedia
ジョン・マッケンロー
国籍:アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
身長:180cm
利き手:左
バックハンド:片手打ち
デビュー年:1976年
引退年:1992年
4大大会最高成績・シングルス
全豪:ベスト4(1983)
全仏:準優勝(1984)
全英:優勝(1981・83・84)
全米:優勝(1979-81・84)
優勝回数:7(英3・米4)
4大大会最高成績・ダブルス
全豪:ベスト4(1989)
全仏:ベスト8(1992)
全英:優勝(1979・81・83・84・92)
全米:優勝(1979・81・83・89)
優勝回数:9(英5・米4)
デビス杯:優勝(1978・79・81・82・92)
キャリア自己最高ランキング
シングルス:1位(1980年3月3日)
ダブルス:1位(1979年5月21日)
プレースタイル:スライスサーブで崩す天才的なサーブ&ボレーヤー
審判にも観客にも悪態をつくマナーの悪さは天下一品
あだ名(悪童)
(出典)Wikipedia
社会現象
1980年は空前のテニスブームだった。テニスをする者しない者、若者は皆こぞってラットを購入し持ち歩いた。それが当時のファッションアイコンと考えられていた。
フィラ・タッキーニ・ラコステなどのテニスウエアに身を包み、テニスコートに出かけたり、街を歩くことが一つのステイタスだった。
1980年のウィンブルドン男子決勝は世界的なテニスブームにさらに拍車をかけていった。
紳士対悪童、ベースライナー対サーブ&ボレー、氷の男対炎の男など、マスコミはこのような対立軸をつくり、試合の行方を世界が固唾飲んで見守っていた。
見どころ
演 技
ビヨン・ボルグを演じる俳優が彼そっくりだ。 スヴェリル・グドナソン という俳優が演じているが、ボルグのやや猫背や、バックハンドでボールを打つ際のフォロースルーで左手を開放するところまでよく表現していた。顔の輪郭、表情、さらにロングヘアのウエーブの感じまで本物と見間違えてしいまうほどである。10歳ごろを演じる子役が端正な顔立ちでよく似た子役がいたものだと感心していた。それもそのはず、その子は、なんとボルグの実の子だった。息子がボルグの子供時代を演じていたのだ。
ジョン・マッケンローは、シャイア・ラブーフという俳優が演じている。顔は似ていないが、サーブのフォームや審判にクレームをつけ、エキサイトして悪態をつく態度などはマッケンローの特徴をよくとらえていた。
マッケンローは当時21歳であどけなさが残っていた。演じるシャイア・ラブーフは当時31歳なので、あどけなさは一切感じられなかった。それが少し残念だったが、左利きで独特のサーブフォームや脱力したバックハンドなどはよく表現できていた。流石ハリウッドの役者は一流だと感じた。
性 格
ボルグは冷静沈着で氷の心、マッケンローは、キレやすい炎の心の持ち主だということが世界的に浸透している。筆者もそうなのだろうと思っていた。
しかし、映画を観てわかった。ボルグとマッケンローは同じ特性(気質)を持っていたのだ。
ボルグは、幼いころから、負けるのが大嫌いで、負けるとラケットを投げたり、人に当たったりする感情の起伏が非常に激しい少年だった。そのボルグ少年の才能に気づき、テニスの技術と感情を抑えることを教えたのは、コーチのレナード・ベルゲリンだ。彼との出会いがボルグの燃えたぎる心を封印すると同時にそのエネルギーを正確無比のベースライナーに変身させた。
マッケンローは、厳格に家庭に育ち、その幼少期に受けたプレッシャーがあの異常までの攻撃的な性格を形成することになったようだ。
一見対照的に見える二人だが、本質は同じファイターなのだ。二人は、相手に自分と同じものが存在していることに気づいていた。だからこそ絶対に敗けたくなかった。その反面、相手の苦しみや辛さを理解し合えた。そして、同じ気質同士が共感し合うことを通して友情が芽生え、後に大親友となった。
プレッシャー
この物語は、主にボルグに焦点を当てている。試合前のボルグのプレッシャーは尋常ではない。マスコミやファンが常に目を光らせているので、気が休まるときがない。おまけに、超新星のマッケンローが自分の連覇に待ったをかけようとしている。そのときのとてつもないプレッシャーが映画の中によく描かれている。本当の主役はボルグであろう。
このようなボルグの当時の立場を知ると彼が26歳という若さで引退したのもうなづける。
試合の情景描写(息詰まるタイブレーク)
セットカウント マッケンロー1、ボルグ2で迎えた第4セットのタイブレークは凄まじい。ボルグのマッチポイント7つを凌ぎ、18-16でマッケンローが執念でそのセットを奪いとる。そのときの壮絶な攻防が最大の見どころだ。極限まで追い込まれた精神状態でのつばぜり合いは、テニス史上最高のプレーだ。映画から、その緊迫感と臨場感を十分に味わうことができる。
実際にその場にいた観客のなんとうらやましいことか。
試合後の二人の関係
ボルグとマッケンロー同士が親友であることは、テニスファンの間では有名である。もちろんこの試合が二人を結びつけたのだ。
歴史的な試合を終えた直後、二人が空港でばったり会うシーンがある。二人は、昔から知った友達同士であったかのようなフランクな笑顔で語りかけ交流する。極限の中での試合を経験した者同士にしかわからない何かが二人の心をつないだ。
この場面は、友情が始まる名シーンだ。
二人のその後
マッケンローは、その年(1980年)のUSオープンで優勝している。決勝の相手はボルグだ。翌年1981年のウインブルドンでも優勝している。決勝の相手は再びボルグだった。マッケンローは前年の雪辱を果たし、ボルグはその年に引退した。それが世代交代となりマッケンロー時代の幕開けとなる。その後、ライバルたち(レンドル・コナーズ・ベッカー・エドバーグなど)と名勝負を繰り広げ、テニスブームをさらに盛り上げる。
一方、ボルグは衣料ブランドを立ち上げたが、うまくいかず優勝トロフィーやラケットをオークションに出すなどし、その後の人生は決して平たんな道ではなかったようだ。
終わりに
YouTubeにもこの試合がいくつかアップされている。先に映画を観てからYouTubeを見ると、二人のバックボーンがわかっているので、その映像をより楽しく鑑賞することができるはずだ。
是非、この「ボルグ/マッケンロー 炎の男と氷の男」を見て、テニスのすばらしさと崇高さを感じてほしい。そして、世界を動かしたこの二人の業績を称えたい。なぜなら、ボルグとマッケンローは最高のテニスプレーヤーなのだから。
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